日本放送作家協会主催 作家養成スクール
「流れ星にね、お願いを聞いてもらったことがあるの」
得意気に親友がそう言ったのは、二杯目のウィスキーがなくなる頃だった。
「それって流れ星が消えるまでに三回言えたってこと?」
「そう。流星群が降る夜にね」
ほとんど空になったグラスを呷り、彼女は話を続ける。
「あれって見付けてからじゃ遅いじゃない? だから一晩中、ずっと願いを唱えてたのよ」
「かなり本気ね。何て?」
「勝ちたい」
口から漏れ出た溜め息のように、彼女はぼそりと呟いた。
「勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい――って。どう、これなら言える気がするでしょう?」
「そうだけど、一体何に勝ちたかったの?」
「何にじゃないわ」
彼女の瞳がじっとこちらに向けられる。
「あなたに、勝ちたかったのよ」
「馬鹿なこと言わないで」
言いながらも、全身がカーッと熱くなっていくような気がした。私たちは親友であるだけでなく、互いをライバル視している。
「……そう言えば、聞いてもらったって言ったわね。その願いは叶ったの?」
「分からないわ」
彼女は手元に視線を落とした。
「分からないから、こうしてあなたと話しているんじゃないの」
「なるほどね」
少し、酔っているのかもしれない。たかがウィスキー二杯で彼女が酔うとも思えないが。
「私はあなたに勝てたのかしら?」
聞かれた私の胸の内にあったのは、勝負以前のことだった。星に願うほどの強い思い、私は彼女のそれに報いなければならない。だって親友なのだから。
そんなことを考える私も少々酔っ払っているのかもしれない。とは言え対抗策に思いを馳せるのは非常に愉快だった。
勝負はまだ付いていない。
私はウィスキーのおかわりを頼んだ。
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