日本放送作家協会主催 作家養成スクール
野太い笑い声が部屋じゅうに響きわたる。
壁時計の針が、てっぺんで一つに重なり、昔話に花が咲く。
「躓いたところに背負い投げって」
「そうそう、よいしょ、だっけか?気合いの声出した瞬間、投げられちゃってよお」
「お前ら、それ三十年前の話」
荒井のツッコミにも僕は黙って頷き、ただ笑い声をあげる。
高校の柔道部員は全部で六人。一年に一度、必ず集まった。そして酔いがまわる頃、いつも同じ話で盛り上がった。
最後の大会の結果は地区予選一回戦負け。主将で大将の荒木が呆気なく負けた。
当時流した悔し涙も、いまでは笑い涙に変わっている。
目の前の荒木は、腹も出て結婚指輪も肉に食い込むただのおじさん。
「風間に夢を託そうぜ」
呂律の回らない大声で、荒木が拳を突き上げる。それに続く四人の仲間たち。
壮行会という名目で、臨時同窓会が開かれた。僕が顧問を務める公立高校柔道部、つまり僕たちの母校が創立以来初となる全国大会出場を決めた。
「だけど、なんで柔道続けてるんだよ」
荒木が真剣な目で僕を見つめる。
「風間がこんな柔道好きだったなんてな」
他のメンバーも、口々に意外だと煽る。
「なんとなく、だよ」
彼らの言う通りだ。僕は柔道が好きなわけではなかった。
あの日、交わされたメンバー表は、今でも大切に持ち歩いている。財布が変わっても、お守り代わりにずっとそばに置いておいた。
先鋒:立花、次鋒:石川、中堅:大屋、副将:塩田、大将:荒木。
何度も確認した。何度も何度も確認した。
けれど、僕の名前はどこにもなかった。
悔しさは遅れてやってきた。気がつけば、高校で辞めるはずだった柔道を続けていた。
「よいしょー!」
威勢のよい乾杯とともに、六つのグラスが一つの輪になった。
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