日本放送作家協会主催 作家養成スクール
夏祭りなんてすっかり忘れてしまっていた。
今日もぶらつこうかと、隣駅に行く電車に乗るといつもはガラリとした電車はすし詰めになった人々であふれかえり「あぁ…今日は祭りの日だっけ」と普段着で来てしまった恥ずかしさから入口付近のポールにもたれながら電車に揺られていた。
仕方なくいつもの店でなく屋台でビールを頼み飲んでいると「高志先輩?」と声を掛けられ顔をあげると女性が立っていた。「えと…どこかで
会った事が…」と記憶を巡らしていると「私ですよ!私!高校の部活で後輩だった咲ですよ!もう、忘れちゃったんですか?」と隣に腰を下ろした。
思わぬ再開の思い出話に花を咲かせていると「あ、そろそろ行かなきゃ!先輩、神輿引き見ます?また会いましょう」と言い去っていった。
咲は高校時代の陸上部の後輩で、同じ種目ということもあり自然と仲良くなり、告白されたけど結局付き合うことはなかった。理由を考えても思い出せない。なんでだっけか。あれから十年も経っているのだから。もうお互い忘れてしまったのかなと、ドキドキした気持ちを抱えながら、神輿引きの時間まで待つ事を決めた。
最後の神輿引きが始まる時間に広場に行くと、いた、咲ちゃんだ。「よう、来たよ」と話しかけると相変わらずまぶしい笑顔を見せてくれた。「咲ちゃん…あのさ」と言いかけた瞬間、「あの神輿を引いてる、あの人!彼氏なんですよ。今秋、結婚するんです。」と思いもしない告白を受けた。「え…おおっ!そうなのか!おめでとう」としか言えなかった。そのあと酔い覚ましで咲ちゃんが奢ってくれた電球ソーダを言いきれなった想いと一緒に飲み込んだ。途端に咲ちゃんとの言い知れない溝を深く感じた。
「もうそろそろ、帰らないと…」と言うと、咲ちゃんは変わらない笑顔で「はいこれ!先輩と会えてよかったです!先輩、昔のまんまですね。」と空いた電球ソーダを渡して手を握ってきた。
帰りの電車に揺られながら鞄の中でピカピカと
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