受講生の作品

春の雪

加藤 賢造
2期生(2016年度)
性別:男性

月刊「たる」2016年2月号1話

君は信じないだろう。
 二週間前にも強がりを言ったぼくは、君に意見されてから一ヶ月間、きょうでもう四十五日間、アルコールを一滴も口にしていない。いや、一滴ぐらいの可能性は、なくはない。
 きのうのデミグラスソースには酒が使われていたはずだし、一昨日の銀鱈の西京焼にだって――。けれど自分では、森下ァ変だぞと絡まれつつも同窓会でウーロン茶を飲み、あさりの酒蒸しさえ避けていたほどだったんだ。
 飲まないと決めた初日はベッドに入っても悶々として、梟になったような気分だった。
 君は知っているかい?
 きっと君なら百も承知だろう。寝酒は、あれはただ呑兵衛を失神させるものらしい。熟睡を誘うクスリではないんだって。
 三日目の夜、麦茶を飲もうとキッチンに立ったとき、ぼくは焼酎のボトルを見つめていた。樽仕込みの麦焼酎。酒精分二十五度の、琥珀色のお気に入りを前に、こんどは蛇になった気分だ。チロチロ赤い舌を出して、赤い眼で獲物を凝視する、というとおおげさだが、三秒間はまあそんな感じだった。節度を守れば百薬の長、なんて天の声に逆らいながら。
 中性脂肪四百六十八ミリグラム/デシリットル。仕事中に倒れた友人はそれが五百を越えていたと得意気だった。ある先輩は肝硬変で逝った。テレビでよく見る漫才師が急性膵炎で入院した――と、そんなことを気にして、期限付とはいえ、断酒したわけじゃない。
 君の呆れ顔と、そのあとの、
「どうせやめられないんでしょ」
 と言っているような双眸が、知的で長い睫毛が、ぼくに決心させたのだ。
 君を驚かせてやる。
 その一心で、ぼくは梟になり、蛇になり、虚しい夜を過ごし、ときには巌になり、きょうを迎えたってわけだが君の態度はどうだ。
 なぜあんな男と、仕事だとしても密室でさも楽しそうに、一体何を話しているんだ。
 よし、結果がどうあれ、今晩は思いっ切り、飲んでやる。
 もつ煮込みを肴に純米酒……
「森下さん、診察室へどうぞ」  (了)

作品種類
雑誌掲載作品
修了制作 最優秀賞受賞作品
作品ジャンル
小説
   

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