日本放送作家協会主催 作家養成スクール
持田亜矢は仕事帰りにコンビニに寄ると、梅酒を買って一人暮らしのアパートに戻った。
「いつもはノンアルコールだけど、今日はいいことがあったから飲んでみよう!」
亜矢は、生徒からもらったメモと故郷から送られてきたというサクランボの包みをテーブルに置くと、梅酒を一口飲んで心が和んだ。
夢と希望に溢れ、教育サービス業の会社に就職して六年。入社当時の水水しい感覚も薄れ、ノルマをこなす毎日に自信がなかった。
亜矢は、三年ほど前に池袋教室で山本陽介の担当になった。彼は四十歳、独身だった。
「仕事帰り、資格取得のために勉強します」
「正社員になれるように応援します」
陽介は就職氷河期にメーカーに就職したが、五年程で退職。非正規雇用で十年程働き続けているが、資格を取り、正社員になりたいと入会した。亜矢は、簿記、MOS、FP、宅建など、役に立ちそうな資格を紹介した。
「持田さんがすすめるならやってみるか!」
陽介は、一生懸命な亜矢の態度に共感し、勧誘される資格に素直に挑戦し続けていた。
「やっぱり才能ないんですよ」
取得できない資格もあって、山本さんは時々自信なさそうに呟く事もあった。
「山本さん、三年も資格取得の為に努力し続けています。それだって才能です!」
「要領悪くて、時間ばかりかかって。それに資格があっても採用されるとは限らないし」
「大丈夫です。あきらめないって凄い力です」
そして今日、山本さんが事務職の正社員に内定したと知らせに来てくれた。
「ありがとうございました。田舎から、サクランボと日本酒送ってきたので、サクランボをどうぞ! 今日は美味しい酒が飲めます」
亜矢は、山本さんの笑顔を思い浮かべながら梅酒を飲んで、すっかり心地よくなった。「持田さん、くどき上手ですね。おかげで、正社員になれました。山形には『くどき上手』という美味しい酒があります」
メモにはそう書かれていた。亜矢は、少しは自分も仕事で成長できているのかもしれないと嬉しくなった。『くどき上手?』、亜矢は今度飲んでみようかなと思った。
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