受講生の作品

ワインとでん六

小穴久美恵
専門コース
5期生(2019年度)
性別:女性

月刊「たる」2020年4月号51話

「やはり、この年はモノが違う。値段だけの価値はあるよ。君もそう思うだろ」

クチュクチュ、シュルシュル、ゴクッ。

ワイングラスをスマートに回しながらテイスティング。高級ワインと逸品料理、それぞれの相性も丁寧に説明してくれる。

四十歳過ぎ、『男無し』の身の上なら、ルックス、経済力共に合格ラインに達していれば、まずはホールド。あわよくば、一度くらいは『人の妻』というステータスをこの手にしたいと願っても罪にはならないだろう。

そんな淡い期待とは裏腹に、『優良物件』に違いない彼と過ごすほどに「本当にこれでいいのか?」ワインのオリのように、そんな気持ちが溜まっていく。楽しくないわけではない。知らない世界も見せてくれる。でも、彼と飲んでも酔えない……

冴えない気分の転換にでもなればと、同級生の集まりに出かけた。

「中野はまだ、一人なんだって」

高木だ。バツイチになったと聞いた。

「俺、こうして飲むのが好きっちゃねぇ」

氷入りのビアジョッキに、安ワインをなみなみと注いだものを持ってすり寄って来る。

方言丸出しで「赤ワインには、これが合うっちゃねぇ」と、もう片方の手にしているのは、なんと! でん六のピーナッツチョコ。

子供の頃、よく食べた懐かしい味だ。

半信半疑で薦められるままに、カリッっと一口、そして、ワインをグビッ。

これは……美味い。でん六のまろやかな甘みと絶妙なハーモニーを奏でるピーナッツの塩味と歯ごたえ。そこに冷え冷えの赤ワインが爽やかに流れ込んでくる。

う~ん。たまらん。

「どう? よかろうもん」トロンとした目の高木がよりかかってくる。

高木、あんたとは無理やけど、このワインとでん六は、すっごくよかよぉ。

密着してくる高木をいなしながら、でん六をカリッと噛んで、名もない冷たいワインをグビッと飲む。

これが身の丈というものか……

ちょっと酔いが回ってきたかも。

作品種類
ラジオ放送作
雑誌掲載作品
修了制作 最優秀賞受賞作品
作品ジャンル
ラジオドラマ
ショートストーリー
小説
エッセイ
   

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