日本放送作家協会主催 作家養成スクール
「やはり、この年はモノが違う。値段だけの価値はあるよ。君もそう思うだろ」
クチュクチュ、シュルシュル、ゴクッ。
ワイングラスをスマートに回しながらテイスティング。高級ワインと逸品料理、それぞれの相性も丁寧に説明してくれる。
四十歳過ぎ、『男無し』の身の上なら、ルックス、経済力共に合格ラインに達していれば、まずはホールド。あわよくば、一度くらいは『人の妻』というステータスをこの手にしたいと願っても罪にはならないだろう。
そんな淡い期待とは裏腹に、『優良物件』に違いない彼と過ごすほどに「本当にこれでいいのか?」ワインのオリのように、そんな気持ちが溜まっていく。楽しくないわけではない。知らない世界も見せてくれる。でも、彼と飲んでも酔えない……
冴えない気分の転換にでもなればと、同級生の集まりに出かけた。
「中野はまだ、一人なんだって」
高木だ。バツイチになったと聞いた。
「俺、こうして飲むのが好きっちゃねぇ」
氷入りのビアジョッキに、安ワインをなみなみと注いだものを持ってすり寄って来る。
方言丸出しで「赤ワインには、これが合うっちゃねぇ」と、もう片方の手にしているのは、なんと! でん六のピーナッツチョコ。
子供の頃、よく食べた懐かしい味だ。
半信半疑で薦められるままに、カリッっと一口、そして、ワインをグビッ。
これは……美味い。でん六のまろやかな甘みと絶妙なハーモニーを奏でるピーナッツの塩味と歯ごたえ。そこに冷え冷えの赤ワインが爽やかに流れ込んでくる。
う~ん。たまらん。
「どう? よかろうもん」トロンとした目の高木がよりかかってくる。
高木、あんたとは無理やけど、このワインとでん六は、すっごくよかよぉ。
密着してくる高木をいなしながら、でん六をカリッと噛んで、名もない冷たいワインをグビッと飲む。
これが身の丈というものか……
ちょっと酔いが回ってきたかも。
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